「何かあったの?」
カレンの声が、小さな二人分の足音と共に俺の方へと近づいて来た。カレンの質問に答える前に、俺が立っていたところまで来ると、足音は止まり、隣に並ぶようにして立ち止まる。「これって……」
「鏡……よね?」 カレンと新島さんから小さい声が漏れた。その声にも反応しない俺の事が気になったのか、俺の隣にいたカレンがわき腹をツンツンとつついてくる。それでも俺はその鏡の存在から身を離せないでいた。「ちょっとシンジ君?」
「あぁ……ちょっと気になるんだ……」「どういうこと?」 怪訝な顔して俺の顔を見上げてくるカレン。それにやっぱり視線すら合わせられない俺。その事に不思議がる新島さん。俺が動かない事で、何かを感じたらしいカレンが、置いて有る鏡の方へと向かうと、その前後を確認し始めた。
新島さんもカレンに合わせるようにして鏡の側まで近づき、興味深そうにその姿を見つめ始めた。「ヒッ!!」
そんな新島さんが、鏡を見つめてすぐに悲鳴を上げる。カレンは新島さんの近くに居たので、すぐに新島さんの隣まで移動して何があったのか確認を始めた。「先輩!! 大丈夫ですか!?」
「ひっ!! う、うそ!?」 新島さんはカレンの質問に答えることが出来ずに、鏡から一歩ずつ後ずさりし始めた。その様子に自分では何もできないと思ったのか、カレンが俺の方を向いて首を左右に振る。「うん。このままじゃまずい……一旦外に出て戻ろう」
「うん。わかった」「じょ、冗談でしょ? ねぇ……」 俺とカレンの顔を行ったり来たりと見る新島さん。彼女の顔色がだんだ「鏡か……?」 全身が写りそうなほどに大きな鏡が一枚だけ置いて有る。飾ってあるわけでもないその鏡を見て俺の全身にブワッと鳥肌が立った。「何かあったの?」カレンの声が、小さな二人分の足音と共に俺の方へと近づいて来た。カレンの質問に答える前に、俺が立っていたところまで来ると、足音は止まり、隣に並ぶようにして立ち止まる。「これって……」「鏡……よね?」 カレンと新島さんから小さい声が漏れた。その声にも反応しない俺の事が気になったのか、俺の隣にいたカレンがわき腹をツンツンとつついてくる。それでも俺はその鏡の存在から身を離せないでいた。「ちょっとシンジ君?」「あぁ……ちょっと気になるんだ……」「どういうこと?」 怪訝な顔して俺の顔を見上げてくるカレン。それにやっぱり視線すら合わせられない俺。その事に不思議がる新島さん。 俺が動かない事で、何かを感じたらしいカレンが、置いて有る鏡の方へと向かうと、その前後を確認し始めた。 新島さんもカレンに合わせるようにして鏡の側まで近づき、興味深そうにその姿を見つめ始めた。「ヒッ!!」 そんな新島さんが、鏡を見つめてすぐに悲鳴を上げる。カレンは新島さんの近くに居たので、すぐに新島さんの隣まで移動して何があったのか確認を始めた。「先輩!! 大丈夫ですか!?」「ひっ!! う、うそ!?」 新島さんはカレンの質問に答えることが出来ずに、鏡から一歩ずつ後ずさりし始めた。その様子に自分では何もできないと思ったのか、カレンが俺の方を向いて首を左右に振る。「うん。このままじゃまずい……一旦外に出て戻ろう」「うん。わかった」「じょ、冗談でしょ? ねぇ……」 俺とカレンの顔を行ったり来たりと見る新島さん。彼女の顔色がだんだ
こうして代々繋いできた新島家と屋敷ではあるが、時間経過と共に屋敷内外で起きていた奇妙な事案に関することが口伝することが薄くなり、現代に至っては忘れられていたという。「最近になって、立夏やその下の子たちが何やら騒いでいるのに気づいてな。婆さんにそのことを言ったら、先祖伝来の話を思い出したのじゃよ」 そこまで話し終えると、目の前にある湯飲みの中の物を一気に飲み干した。 家を見た感じ、かなりの大きさなので元々は地主さんか何かだとは思っていたが、部屋の大きさ一つ一つがかなりのモノであるので、もしかしたらそれ以上の家系なのかもしれないとは思っていた。しかし俺の予想とはそこまで離れていないにしろ、考えていた以上にこの家には何かあるらしい。――もしかしたら家ではなく土地にかもしれないけど……。「それでおじいちゃんは何か思いつくようなことが有るの?」 立夏さんの子東巴に関して祖父と祖母は同じような姿で考えこむ。「ないなぁ……」「無いわねぇ」 揃ったかのように一言ずつ漏らす祖父母。「お父さんは?」 今度は静かに話を聞いていたお父さんに向け質問する立夏さん。 少し考えるような素振りをしながら、お父さんは庭の隅の方へと顔を向けた。「無い事も……ない」「え!?」「実は俺もここ最近だが、誰かに見られているような気がしていたんだ。それもウチの周りにいる時ばかりな。たしか母さんも……」「そうですね。私の場合はけっこうな時間をこの家の周りで過ごしてますからね。そういう感じは何となくしてました」「そ、そうなんだ……」 両親の話を聞いた立夏さんは、「私たちだけじゃなかったんだ」と小さな声で続いた。 ここまで聞いた話を考えると、どうやら今回の現象はこの家に纏わることに関係しているんじゃないかと俺たちの中では予想できた。 そこで俺は伊織にアイ
「な、なんだこれ……?」「…………」 俺と伊織は何があってもいいような態勢をとりつつ、その場から少しずつ離れていく。俺と伊織の異変に気付いた相馬さんとカレンが、俺たちに同調したように側まで急いで来てくれた。「え!? なに? どうしたの?」「あぁ……」 新島さんは俺たちの行動に驚いている。立花先輩は何かに気が付いたのか、俺たちを見た瞬間に一人で納得したように一つ頷いた。「視《み》えたんだね?」「え!? 見えた? 何が見えたの? ねぇ七瀬ちゃん!!」 軽くパニックに陥っている新島さんを、よしよしするように頭をなでる先輩。「はい……視えました……」 先輩の質問に答えたのは俺。「じゃぁやっぱり何かいるんだよね? ここに……」「え!?」 先輩の言葉に今度は驚いている新島さんは、俺たちと先輩の顔を行ったり来たりしながら見ている。「はい……でも、なにかまでは分かりません。とりあえず……何もしてくるような気配はないので、家の中に入ってみましょう」「うん。藤堂君よろしくね」 先輩からよろしくなんて言われたけど、俺に何ができるかはこの時はまだ分からないので、笑ってごまかすことしかできなかった。 玄関前で行われていたひと騒動は、家の中にいた新島さんのご両親とご祖父母にも聞こえていたみたいで、家の中に入ったところで、ご両親が俺たちをお出迎えしてくれて、再び俺たちが挨拶をすると、そのまま何も言わずに長い廊下の先に有る居間へと案内してくれた。 そこにはすでにご祖父母の二人が待っていてくれて、この日何度目かの挨拶をした後にみんなでテーブルを挟むようにして座った。 すぐに新島さんのお父さんは一緒に座ったが、お母さ
一通りのスキンシップが終わったであろうか、立夏と呼ばれた女の子がこちらを向いて挨拶してきた。「いらっしゃいませ。私は新島立夏と言います。七瀬ちゃんに話は聞いてます。あんなとりとめのない話の為に今日はわざわざありがとうございます。ささ、どうぞ中に入ってください」 半身だけ向きを変えて門の内側へと手を指す新島さん。その行動に一番に反応したのが立花先輩で、そのまま入って行った。「皆さんもどうぞ。遠慮なく」「あ、ありがとうございます!!」 元気よく相馬さんが返事をすると立花先輩の後を追うように進みだした。その背中を追ってカレン・伊織・俺の順で中に入って行く。「ふあぁ~……」 声に出したのは伊織。中に入ってみたのはとても立派な日本庭園ともいえるような広い庭。そしてその少し奥に日本家屋が堂々たる佇まいを見せていた。少し離れたところに蔵らしきものや小屋のようなものが有る。 この辺でもかなり大きな敷地を有するだろうことは、入ってきた門に至るまでの間に通ってきた塀の長さによって予想はしていたが、その予想を大きく上回る広さと日本らしさの見える風景に圧倒された。なのでこの空間に入った時の、伊織のため息にも似た声には共感できた。「ん?」 そんな感想を持ちつつみんなが進んでいくので、それについていく最中にちょっと気になる気配を感じた。「どうしたの? シンジ君」 俺が漏らした一言に反応したのはカレン。俺と伊織が並んで進んでいたが、その前を相馬さんとカレンが並んで歩いていた。俺の一言に反応したカレンと相馬さんが振り返る。 同時に俺と伊織もその場に立ち止まった。「どうかしたかな?」 門を閉じてから俺たちの後を付いて来ていた新島さんが、俺たちのすぐ後ろまで来て声をかけてきた。「お義兄ちゃん?」「……伊織」 俺は先ほど感じたものを伊織も感じていたのかと、伊織の方へと顔を向ける。しかし伊織は不安そうな顔をしているだけで、何かを感じた
数日後にようやく予定の組めたメンバーに、一人を混ぜた俺たちは、今回の現場となる家へと向かっていた。メンバーは――。「立花先輩の家から近いのですか?」 言いつつ立花先輩の横から顔をのぞかせる相馬さん。「学校からは歩いて十五分くらいかな?」 右手の人差し指を顎に沿えて、その質問に答える立花先輩。「皆、私は確かに年上だけど七瀬でいいよ?」「私たちは学校が違いますけどいいんですか?」 皆を見渡しながらニコッと微笑む先輩に、カレンが質問を返した。「もちろんいいよぉ~!! あんな事に巻き込んじゃったし、解決してくれた恩人じゃない!! それにちょっと距離を感じちゃうっていうか……」「私はまだ中学生ですし、お義兄ちゃんたちの学校に進学予定ですけど、やっぱり先輩は先輩なので……」「そっかぁ……伊織さんはウチに来るんだねぇ。でも来る頃には私はいないのかな?」 などという会話が、俺の前を歩く女子群からなされている。つまるところ今回招集に応じてきたのは、俺たち義兄妹とカレン、それに相馬さんと立花先輩の五人。ほかのメンバーは調べることが有るとか、家に行かなければならない用事があるとかで来れないと事前に連絡が伊織に有った。 この日は、詳しい場所などを事前にメールなどでもらっていたが、突然押し掛けることはできないのと、知り合いの人が居ない時にマズいんじゃないか? という理由で、土曜日の午後に俺たちが通っている高校の正門前で一旦集まる事にした。 最近はこうしてメンバーが集まる事が増えてきたので、そこまで緊張したりすることは無いが、制服姿ではない私服を纏った美少女と言われても問題ないくらいの女子達。その中にはやっぱり会話だけとしてでも入って行くのは難しい。いやここに大野君のような、ある意味、空気の読めないキャラが居たのであれば違いはあるのだと思うが、あいにく俺はそんなことが出来るような高等スキル持ちではない。 なので、彼女たちがお話をしながら進ん
「ところで先生」「なに?」 女子陣の話がすでに三十分を過ぎたころ、俺は視線を女子陣に向けたまま、先生に振った。「今日は先輩を連れてきたのが、本当の目的なんですか?」「あら……やっぱり、そういうところは鋭いのね」「そういうところって……」「確かに、それが目的の一つではあったけどね」 そういうと先生は両手をパンパンと二つ打ち鳴らし、注目させるようにした。「はいはい。盛り上がるのは良いけど、立花さん目的の事話さないといけないでしょ?」「あ!! そうでした!!」 椅子から立ちあがりながら、両手をクチの前に掲げてオロオロし始める先輩。ちょっとかわいいなと思ったら、なぜか響子さんと伊織から睨まれた。――何故だ!? 俺が何をした!? 心の中で動揺を隠せない俺の姿に、先生はクスッと笑うと、先輩の元へと歩いて行く。「今日、部室に立花さんを連れてきたのは理由があります。あなたたちにお礼がしたかったという事が一点、そして――」「相談したいことが有ってきました」 先生の言葉を継いだ先輩が大きく頷いてからその言葉を口にした。 再びみんなで輪になるように座り、先輩が話し始めるのを待つ。「相談したいことというのは、私の近所の家に住む友達の事なんだけど、そのお家って結構古くからある家らしくて、先祖伝来っていうの? そういう類の品がいっぱいあるんだって。それで、いつの事だったかはちょっと覚えていないらしいんだけど、物置を掃除したんだって。ほら今って断捨離っていうの? 流行ってるじゃない。それで必要の無いモノは処分しようと思ったんだって」 そこまでいっぺんに話すと、先輩は一息入れた。「それで、その処分をし始めて結構すっきりした後に、その部屋を新しくリフォームして普通に過ごせるようにしたらしいんだけど、どうもそのころから変な夢やら、出来事が起きるようになったみたいで、毎日よく眠れないって話してくれたん